宮城県亘理郡山元町からの便りに―

 振り返ると、30年ほどもお付き合いが続いている、斉藤知子さん。ご実家は福島市内。ご結婚され三人の息子さんを持ち、10年前に福島県から宮城県亘理郡山元町に引っ越されました。
 今回の東日本大震災では、この亘理郡山元町は総面積の4割が津波にのまれ大被害を受けた町の一つとして、多くの報道番組の映像に取りあげられました。実際に被災地を知らない私達にとって、テレビや雑誌の情報から受ける影響は大変大きく、瓦礫の山や、茶色一色で敷きつめられた平野、自衛隊員のご遺体捜索の姿、道の無くなった海岸線―そこには人が住んでいたという記憶さえ失った景色だけが映し出され、いつの間にかこの亘理郡という場所が、日本でも悲惨な暗黒の場所のように思えるようになってしまいました。
 震災後、何度と無く連絡を取っていた知子さんから、先日丁寧なお手紙が届きました。私は文章を読ませていただいて、山元町の本当の姿を知りました。色とりどりの美しい景色、山海双方の自然の恵みに溢れた土地、子供たちの元気な笑い声、山元町を愛する人々の様子が彼女の文章からしみじみと伝わってきたのです。
 報道は、時に罪を作ります。徹底的に見せ付けられた悲惨な映像は、私たちの頭の中からなかなか出て行きません。今のままでは被災地の名前は、悲惨なイメージを残したまま皆の記憶の中に留まってしまいます。
 今回、知子さんにお許しを頂き、この素晴らしい文章を公開させて頂くことにしました。この中から被災地の方の真実の声と、東北の沿岸部が美しく豊かであったこと、そして今その景色を取り戻すべく生活の営みが始まっていることを感じ取って頂ければと願って。(文章は、そのまま全文を載せています)


 木南有美子様
 
 東日本大震災から三ヶ月近くが過ぎました。先日、復旧支援や行方不明者の捜索のため、愛知・金沢などから派遣されていた自衛隊の方々とのお別れのセレモニーが役場で行われ、1000人近い町民が感謝の気持ちを込めてお見送りをしました。この三ヶ月、町中を自衛隊の車が往来し、役場駐車場、小学校校庭には、自衛隊のカーキ色のテントが立ち並びました。震災直後には違和感を感じた光景でしたが、いつの間にか、それが当たり前に映り、最近では、町外から戻り、自衛隊の車に出会うと、却って、心強い気持ちにさえなっていました。おおくの自衛隊の方々が去られた後、町は、沿岸部を除いては、震災前の様子に戻りつつあります。
 私達家族が山元町に住み始め、十年が過ぎました。
美しい山や海を抱く自然豊かな山元町は、八年程前、街を丸ごと自然の博物館に見立て、『山元・田園空間博物館』と名付けました。自然の風景そのものが芸術品です。そして毎年、一年を通して、町の自然や特産品を生かしたさまざまな企画を実施してきました。「りんごの楽校」「田んぼの楽校」「山の楽校」「夢・苺の里」「ホッキ祭り」等々、一つ一つの取り組みに向け、農業や漁業に携わる方々、町民、役場職員が集い協力し合い、町を盛り上げてきました。我が家の三人の息子達も幼い頃から、幾度も参加させてもらい、豊かな自然に触れ、さまざまな人と出会い、そこから多くの恩恵を受けて育ちました。
 そんな元気でやさしい山元町がこれからもずっと続くものだと思っていましたが、今回の震災で、山元町の面積の四割が津波で浸水し、おおくの尊い命、人々の平穏な生活、そして多くの美しい自然が失われました。
 それでも、五月に入り、高台の田んぼでは田植えが行われ、来年のためにと苺の苗を植え始めた苺農家の方もいらっしゃいます。少しずつ前に歩み始めているようにもみえます。今回の自衛隊の撤退も含め、色々な意味で、一区切りついたということかと思いますが、現実には、いまだに公民館や体育館の避難所やテントでの生活を続け、前へと先を急ぐ復興の流れには足並みを揃えられずに居る方も多くいらっしゃるようです。被災された方の多くがまだまだ緊張と不安の中で生活を営んでいるような気がします。
 余力のない私は、町の復興のためにも、悲しみの中にある方のためにも、何もできずにおりますが、これからも、震災の犠牲になられた方々を悼み、被災された方のために、小さなことでも何かできることがあれば、という気持ちは持ち続けたいと思っています。
 最後になりましたが、震災直後は大変ご心配をおかけいたして、申し訳ありませんでした。また、温かいお見舞いや励ましのお言葉をいただきまして、ほんとうにありがとうございました。 
 梅雨の季節がまいりました。どうぞご自愛くださいますようお祈り申し上げます。 
 遅くなりましたが、書中にて御礼申し上げます。                      かしこ
平成二十三年六月                                     齋藤知子





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タイトル:夢・苺の里(山元町のとも子さんに寄せて)
サイズ:短冊
制作日:2011年6月15日

by hanatsudoi | 2011-06-28 07:31 | エッセー | Trackback | Comments(0)
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